家づくりの想い

世の中には様々な高気密高断熱工法があります。
その中でスズユウ工務店はなぜソーラーサーキットにこだわるのか。

海に囲まれた半島内部の地域特性、木が及ぼす影響、思いもよらぬところへの結露。

家を建てる前に知ってほしい、住まう人への想いを
ソーラーサーキットに行きつくまでの経緯とともにご紹介します。

長い文章ですが、これからの家づくりを真剣に考えられている方に、最後までお読みいただけると幸いです。

大工の家に生まれた私

大工道具の墨壺

大工道具の墨壺(直線を引く道具)

私の父は大工で、昭和36年頃に創業し、昭和47年に有限会社スズユウ工務店として設立されました。
父は直接家業を継いでほしいとは言葉にしませんでしたが、私に大学は建築学科に進学してほしいと願っていたようです。
しかし、理数系が不得意な私は文学部に進み、大学卒業後は大手建設会社に入社し、鉄骨系のプレハブ住宅の営業職として働きました。一度別の仕事に就いたこともありましたが、ちょうどよいタイミングで父に戻ってこいと言われ、結婚と前後してスズユウ工務店で働くことになりました。

今思えば、私は小さなころから木を削る音、そうした木の香りの中で育ってきました。
だから鉄やコンクリートの中で人が暮らすことに違和感を覚えていて、それがスズユウ工務店に戻る動機になったように思います。

その後、建築学科卒ではない私は、少し遠回りをして一級建築士の資格を取得しました。

住宅金融公庫仕様の家に疑問

昭和時代の家並み

昭和50~60年代の家並み

昭和の終わりから平成にかけての当時、家づくりの借り入れ先として、住宅金融公庫がよく使われていました。住宅金融公庫を使うためには断熱や耐震について、一定の基準をクリアする必要がありました。しかしそれは最低限度のもので、構造や実際の断熱性は良くない住まいでした。

例えば、断熱はグラスウールの充填方法も入ればいいという意識で、どのくらいの効果があったのかは疑問です。
私自身も結露は冬には仕方がないものだと思っていましたし、壁体内結露など、思いも及んでいませんでした。

私が住む千葉県は海に囲まれた半島です。温暖で年間を通じて湿度が高い気候です。
この湿度の中、快適に暮らすことのできる家づくりをすることができたら、と思うようになりました。

実は、木材は柱1本がビール瓶2本程度の水分を吸放湿してくれます。夏は水分を吸ってくれて、冬には吐き出してくれます。
また、動物実験により、木の家は動物(ネズミ)でさえ、子育てに良い影響を与えることを知りました。
鉄とコンクリートの家にいたネズミは子育てするどころか、子どもを食べてしまったそうです。木の家にいたネズミはよくよく子育てをしたそうです。
よって、人にも木材が良いのは明らかです。

またこのころの私は、大学卒業後に一度外の世界に出たことによって、日本の伝統を残したいと考えるようになっていました。
プレカットが増え、木材の工場での精度は高いけれど、現場に合うかどうかという精度はまた別のものではないかと思っていたのです。

お客様の意識の変化

入母屋の芸術的な家づくり

入母屋の芸術的な家づくり

平成も半ばになると、温室効果ガスの問題が具体化し、CO2削減へお客様の意識も変化しだしてきました。

このころ、近隣の裕福な方は入母屋のような芸術的な家づくりをされる方がまだ多く、ヒノキ・杉などの良い材料や高い技術でご提供していました。
しかし、喜んでくださるのはご主人のみでした。
なぜならこのような家は日本の伝統的な家づくりのため、夏は涼しいですが冬は寒く、メンテナンスも大変で奥様やご家族には好まれなかったからです。

一般的なお客様に対しては、私はお施主様のことを考えると少しでも費用を抑えて建てられる家が良いと思っていましたので、断熱性や気密性は考慮せずに家づくりをしていました。
そんな中でも二重ガラスにすれば、結露も防音にも効果があると思っていました。

高気密高断熱の家と工法への葛藤

時代は「高気密高断熱の家」がうたわれるようになってきました。
そこで、建材メーカーが開発した高気密高断熱工法に入会することにしました。
しかし、今一つ気持ちが乗りませんでした。説明を聞いても、心を動かされるような気持ちが起こらない。
本当にこれがいいのか、心が決まっていませんでした。
なぜなら、その工法では壁の中の通気が取れないし、工場ではなく現場での丁寧な作業でないと、雨風しかり、風通しなど良いものを提供できないと思っていたからです。

そして、その建材メーカーの推奨もあり、断熱性・使いやすさで窓はアルミが最も良いと思ってお客様に使用していました。単に二重ガラスにすれば効果があるとまだ思っていたのです。
しかしこの時の私はまだ迷っていました。

このころ、その建材メーカーの家は、近隣の中堅会社が建てているのがよく目につきました。
自分たちよりも知名度があることで先行されていたのです。

これでいいのか

受注できないこの建材メーカーの高気密高断熱住宅からはどんどん気持ちが離れ、不信感すら持ちはじめていました。
結局、その建材メーカーの家は1件も受注することはできませんでした。
私自身が本当にこの住宅がお施主様のために良いものであるか、確信がなかったことが、お客様に伝わっていたのかもしれません。

建材メーカーの工法が腑に落ちなかった私は、他の工法を探し始めました。
そんな中、海外から入ってきた工法で建てられた家をリフォームしたときのことです。

リフォーム部分を解体すると、壁の結露により腐食が進行していました。
湿気の多いこのあたりの土地柄では、耐震性を確保するための壁の強度が期待できないことを実感したのです。

また、この頃から「高気密高断熱」とともに「ローコスト住宅」という言葉も出てきていました。

このころの私は本当にこれでいいのかという思いはあったものの、迷い続け、確固たる信念までたどり着いていない状態でした。
幸いお客様から悪い評価はいただかなかったのですが、だからこそ「これでいいのか」という思いがいつも頭をめぐっていました。

ソーラーサーキットとの出会い

ソーラーサーキットの家の屋根裏

ソーラーサーキットの家|屋根裏

伝統工法を続けてきた父親がある日、新聞の見出しでソーラーサーキットと出会いました。父は本の内容に強く共感し、初めて新しい工法に強い関心を持った様子でした。
私もソーラーサーキットの本を読み、大きく惹きまれました。

「この工法がいい」
そう、心が動きました。
気持ちが揺さぶられたのです。

ソーラーサーキットが人の体によく、木にも良い。
現場作業の丁寧さを要求されるから、年に何棟も建てられない、そのような内容でした。

そんな折、父が迷いなく「この工法で造ってみたい」と言ってきたのでした。
ソーラーサーキットのおかげで父との会話も増えたように思います。

新しい仲間と職人の反発

ここでソーラーサーキットや高気密高断熱をよく理解している販売代理店W氏との出会いがありました。

ソーラーサーキットの著書を読み、当時のカネカに連絡し、県内の販売店を紹介してもらいました。その方がW氏です。元カネカ関連の会社にお勤めされていた方で、とてもソーラーサーキットについてよく理解されていました。
W氏は人柄もよく、何かあれば相談に乗ってくれ、真摯に引っ張ってくれました。さまざまな面でビジネスパートナーとして助けてくれました。

しかし、初めての工法に対する職人の反発は必至です。
時代はローコストで職人の作業を省こうとしていました。ですから、職人たちはスピードで食べていたのです。
ソーラーサーキットを導入することで、職人たちの現地での作業は増えます。当然手当ては出すのですが、時代が時代でしたので面倒な仕事かもしれないけれど、これがお客様にとって良いものである、ということを理解してもらうには時間がかかりました。

職人たちが納得しだすも、工法への悩み

職人たちは文句を言いつつですが、しっかり仕事をしてくれていました。
そうすると、今まで工事で屋根裏へ行くと暑かったのが暑くない、冬寒いはずなのに寒くない、ということを体感するようになったと言うのです。
そして、気密性能を数値で測るため、体感と目に見える性能で、職人たちのやる気が上がっていきました。

私はソーラーサーキットとの出会いのあとも、新工法の提案を様々受けました。
それは、世の中で外断熱が話題を集めたため、大手が外断熱を宣伝するようになってきたことに伴います。

同時に外断熱に異を唱える会社が対抗する著書を出版し、住宅の工法は混沌としてきました。

自分なりにもかなり調べましたが、気密性や省力化を奨める工法ばかりで、住む人や住む人に良い木材のことは重視していないように感じました。
やはり、私はソーラーサーキットでいくべきだと思えてなりませんでした。

感銘を受けた本の著者が別方向へ

そのような住宅業界の流れの中、ソーラーサーキットを爆発的に世間に知らしめた都内の建築会社を営む経営者である著者が、他の方法に突然転換してしまいました。外断熱を継承した別の工法を奨める方向に転換してしまったのです。

まさに梯子を外された気持ちです。
いいと思って建てていただいたお客様の気持ちはどうなのだろう。
私だっていいと思って、自信を持ってお客様にお勧めしてきたのに。

お客様へのソーラーサーキットの説明がうまくできなくなってしまいました。

お客様をけして裏切らない

ソーラーサーキットの家のリビング

ソーラーサーキットの家|リビング

そんな気持ちの中、私を救ってくれたのは、ソーラーサーキットと私たちを信頼して建ててくださったお客様たちです。

「本当に住まい心地が良い家」
「エアコンの効きが恐ろしくいい!」
「家の中なのに、いつも空気がきれいなんです」

そんな言葉をいただくごとに、自然の熱や空気の流れを利用して建てたソーラーサーキットがやはり良いのだと心に響きました。

品質性能の低い家は住まう人と木によくない。
工事費用は上がりますが、木を使ったソーラーサーキットの家に住んでほしい。

ソーラーサーキットでいこう。
お客様に心から「住まい心地がいい」と言っていただけるのは、ソーラーサーキットだ。覚悟が決まりました。

かけるべき費用はかけて、住まう人に良い家を

気が付くと、お客様も職人もソーラーサーキットを普通として考える人が増えてきました。

中でも職人は構造検査、気密検査等、結果が出るため現地での丁寧な工事を分かってくれる人が増えてきました。
ソーラーサーキットは気密検査があるため、現場での確実な作業が立証されます。職人のモチベーションにつながるようです。

お客様は、国の基準やカナダの基準を説明すると納得してくれるようになってきました。

今では、自信を持ってソーラーサーキットをお伝えしています。

子どもたちが当たり前に、自然にふつうに育ちゆく家

ダイニング

ソーラーサーキットの家のリビング

温暖な気候の千葉県は、高低差が少なく、地盤の良い地域です。しかし、湿気は多いです。
もともとこのあたりは山武杉など、良い木材の産地でした。
古くは入母屋造で木とともに暮らしていた地域です。

木は呼吸し、余分な湿気を吸い取ってくれます。

だから木でつくられた家に住んでほしいのです。
その木の家が、自然の熱や空気を利用する家なら、さらに人に良い屋内環境を提供することができます。それがソーラーサーキットです。

子どもが生まれたら、みんなすくすくと普通に育ってほしい。
過度な冷暖房を使わずに、家の中のどこにいても寒いとか、暑いとか意識することなく、自然に普通に育ってほしい。
それが当たり前になってほしいです。

人間だから乗り越えなければいけない壁はあるけれど、普通に穏やかに年を重ねていく。
普通に一生を送るための一助に、私たちのつくる家がなれると嬉しいです。

長文をお読みいただき、ありがとうございました。

スズユウ工務店 鈴木 昭男